厭な物語〜読後感、最悪で最高〜

2021年07月09日 09:12
カテゴリ:おすすめ本紹介

『厭な物語』(文春文庫)
 
6月最後の日、今年初めての蝉を聞きました。
もうすっかり夏ですね。暑さに弱い私は、クーラーの効いた部屋でアイス片手にだらだらしています。そのお供にも夏らしく、ホラー小説なんてあったら最高ですね。(諸説あり)
さて、あなたは怖い話、好きですか?そして、あなたにとって「怖いもの」ってなんですか?
 
曰く、いつの世だって怖いのは人間と熊です。(この本に熊は出てきません)
日本のホラーが心理的な怖さ(呪いだとか、得体のしれない何かがいるかもしれない、みたいな)を重視するのに対し、ヨーロッパやアメリカのホラーは物理に寄りがちです。(刃物をぶん回す殺人鬼だとか、殴って解決するゾンビものとか)まぁ最近は後味悪い系も作ってるみたいですけど……でもアメリカの幽霊は主人公に殴られてますね、わりと。
 
今回はそんな、「まぁ色々あるけど結局人間が一番怖いよね」系ホラーをご紹介します。
『厭な物語』、タイトルも表紙も露骨にホラー。
海外、主に英米の著名なミステリやホラーの名手による、怖くて厭な短編を集めたアンソロジーです。アガサ・クリスティやフランツ・カフカは有名ですね。ミステリやSFに通じた方であれば、ハイスミスやジャクスン、ソローキン、フレドリック・ブラウンなんて知っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 
個人的に何が不気味かって、収録されているどの物語も、設定とか舞台が特に変わってるとこほがないこと。どこにでもありそうな小さな町とか道、ひいてはマンションの一室。そんなところから非常に厭な物語が展開します。さすがはいわゆる文豪と呼ばれる作家たち、人の感情の変化を書くのも上手ければ、あっと驚くようなトリック、巧みな視点誘導があちこちに散りばめられていたりして、さんざんわけがわからない迷路を歩かさせられたと思えば、謎が急に解けたときのスッキリした感覚はもうたまらない。中にはたった4ページしかないのに強烈に厭な気持ちにさせられる作品もあるし、なにより最後の短編なんて……あ、これはネタバレかもなので、あまり触れないでおきます。
 
この本はアンソロジー(短編小説集)なので、読みにくい作品は飛ばしちゃってもいいですし。ぜひ手にとってみてほしい本です。最悪な読後感、味わってみてください。
ただ一つだけ言っておくならば、「読みたい作品から読む」より、「前から読んで、読みにくい作品があれば流し読みする/飛ばしながら読む」ほうがオススメです。要は、順番が結構大事、ってことです。あと、解説が優れているので、わかりにくかった作品があれば答え合わせもできますよ。
ちなみに私は読了後、怖くてうしろをみられなくなって、本を放り出しちゃいました。本当は壁に向かって投げつけたかったくらいですけど祟りが怖くてできませんでした。(そういえば、祟りって相当日本的な思想ですよね。人間って怖い、って思ったあとに神仏を恐れてる、不思議だなぁ)

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